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福岡高等裁判所 平成4年(ネ)467号 判決 1993年2月09日

控訴人

久留米市

右代表者市長

谷口久

右訴訟代理人弁護士

原田義継

右指定代理人

長尾良一

外二名

被控訴人

黒岩はる子こと

黒岩ハル子

右訴訟代理人弁護士

最所憲治

主文

一  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠

原判決二枚目表九行目から同一〇枚目表五行目までのとおりであるから、これを引用する。

理由

一本件についての当裁判所の事実認定は、原判決一一枚目裏二行目の「ひたすら」から五行目までを「ひたすら直前の走者に付いて行くべく、直前の走者の足元から腰辺りに視点をおいて走っており(但し、時折顔を上げて隣の者と会話を交わすことはあった。)、進路の安全に配慮してはいなかったが、田中教諭は緒方の右の走り方については認識していない。」と改めるほか、原判決理由一(原判決一〇枚目表七行目から同一二枚目表初行まで)と同一であるから、これを引用する。

二課外のクラブ活動における顧問の教諭の一般的注意義務についての当裁判所の見解は、原判決一二枚目表三行目の「一般に」から同末行までと同一であるから、これを引用する。

三けれども、緒方は、中学二年生であり(当事者間に争いがない。)、是非分別を十分理解でき、自分自身で危険回避の行動、自己規制等を期待できる年輩であるから、緒方が通常の中学生に比して右の能力が低いという特段の事情のない限り、前項のクラブ活動の顧問教諭の指導監督の内容も一般中学生の能力と自己規制力を加味した上での指導監督で足りるものというべきである。

前記認定事実によると、緒方が直前の走者の足元から腰辺りだけでなく、進路前方をも視野に入れながら走っておれば、被控訴人の存在に気付き、直前の走者に引き続き、自らも左に身をかわして被控訴人を避けることができたものと認められるところ、右のような走法は、一般の中学二年生程度の能力であれば、(歩行者の通行を規制しない)道路における持久走での通常の走法として、日常の生活体験上からも自然に体得し得るものであり、本件全証拠によっても、緒方が右程度の能力を欠いていたとは認められず、まして本件においては、緒方も日頃の課外クラブ活動の一環としての練習で十分にそのような走法を身につけていたと考えられるところであるから、田中教諭としては、緒方も他の生徒同様そのような走法で走行するであろうことを前提として指導すれば足りるものと解される。そして前記認定事実によると、田中教諭は、二列縦隊で並ばせて、なるべく列を崩さないようにと指示し、自らも本件コースを三周までは伴走し、四周目から七、八周目までは校門に立って生徒の走行を見守ったのであるが、伴走の必要性まであったかはともかく、列を崩さないようにとの指示は、特に出発当初は生徒が固まって走りがちであるから、生徒自身の安全、歩行者等に対する対応という点の配慮上、適切であり、あと校門に立って各生徒の走行を見守ったことも、特に危険な走行をしている者はいないかの確認、生徒自身の健康上の配慮をするという点からいって十分であり、右の各配慮をもって足りるものというべきである。よって、本件において被控訴人主張の田中教諭の過失を認めることはできない。

従って、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の本訴請求は理由がない。

四以上の次第で、右と結論を異にして被控訴人の請求の一部を認容した原判決は、右認容部分につき取消しを免れず、被控訴人の請求は、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鎌田泰輝 裁判官 西理 裁判官 川畑耕平は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 鎌田泰輝)

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